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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)7503号 判決

原告 熊谷鉄吉

右訴訟代理人弁護士 龍岡稔

被告 岡崎慎一

右訴訟代理人弁護士 秋山昭八

同 高村正彦

右秋山訴訟復代理人弁護士 刀根国郎

主文

一、被告は原告に対し、別紙物件目録(一)、(二)記載の各不動産につき、東京法務局板橋出張所昭和四四年二月四日受付第三、七四二号をもって抹消された同出張所昭和四一年九月六日受付第三五、九二四号所有権移転請求権保全仮登記の抹消回復登記および右回復された仮登記に基づく昭和四三年七月一五日の予約完結を原因とする所有権移転登記を承諾せよ。

二、原告が別紙物件目録(二)記載の建物につき前項の所有権移転登記を完了したときは、被告は原告に対し同建物のうち別紙図面斜線部分から退去して明渡せ。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は全部被告の負担とする。

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  主文第一、四項と同旨。

二  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物のうち別紙図面斜線部分から退去して明渡せ。

三  原告が別紙物件目録(一)、(二)記載の各不動産につき所有権を有することを確認する。

との判決を求める。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の事実主張

(原告の請求原因)

一  別紙物件目録(一)、(二)記載の不動産(以下本件各不動産という)はもと訴外高柳松太郎が所有していたが、原告は昭和四一年春から継続的に訴外高柳松太郎、同高柳直己の両名を連帯債務者として金員を貸付け、右貸付金額が同年九月五日現在金三五〇万円に達したので、同日右両名との間で右金三五〇万円を含め金六〇〇万円を極度額とする継続的融資契約を締結し、訴外高柳松太郎との間で右両名のうちいずれかが支払停止となり、または手形、小切手を不渡りとした場合には残債務を一時に支払うこと、その場合原告は代物弁済として本件各不動産を取得することができる旨の代物弁済予約を締結し、同月六日東京法務局板橋出張所同日受付第三五、九二四号をもって本件各不動産につき右代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記(以下本件仮登記という)を経由した。

二  しかるに訴外高柳直己は昭和四二年八月二五日小切手を不渡りとしたので、前項の融資契約に基づく貸付金残金六五〇万円の履行期が到来した。

三  そこで原告は昭和四三年七月一五日付書面をもって右予約完結の意思表示をなし、右書面はそのころ訴外高柳松太郎に到達し、原告は本件各不動産の所有権を取得した。

四  ところが、東京地方裁判所昭和四二年(ヌ)第七二一号不動産強制競売申立事件(債権者訴外木村順、債務者訴外高柳松太郎)において、訴外株式会社いすず興産ほか五名が昭和四三年七月一一日本件各不動産につき競落許可決定をうけ、代金完納のうえ昭和四四年二月四日所有権移転登記をうけ、ついで同月一七日右訴外人らから被告に同月一五日付売買を原因として所有権移転登記がなされた。

五  ところで、東京地方裁判所(民事第二一部)は民事訴訟法七〇〇条一項により前記競落人らのため所有権移転登記を嘱託し、同時に原告の本件仮登記の抹消をも嘱託し、これにより右仮登記は東京法務局板橋出張所昭和四四年二月四日受付第三、七四二号をもって抹消登記された。

六  しかしながら右抹消登記はつぎの理由により違法である。

(一)  前記強制競売手続に基づく強制競売申立の登記がなされたのは昭和四二年一〇月一八日であって原告の仮登記はこれより先順位である。

(二)  右抹消登記の嘱託は、本件各不動産に前同出張所昭和三五年六月一〇日受付第二〇、五八五号をもって訴外豊島青果信用組合のために抵当権設定登記がなされており、右登記が民事訴訟法七〇〇条一項二号により抹消さるべきものである以上これより後順位の本件仮登記も抹消さるべきものであるとの理由によるものと考えられるが、右設定登記にかかる抵当権の被担保債権は昭和三八年六月二五日弁済により既に消滅しており、したがって右抵当権も既に消滅していたものであり、かつ前記裁判所は前記嘱託前の昭和四三年一二月一二日に右被担保債権消滅の事実を右訴外組合からの届出によって知っていたものである。したがって右抵当権設定登記は民事訴訟法七〇〇条一項の指定により抹消さるべきものではなく、本件仮登記もまた右抵当権設定登記より後順位であるという理由のみにより抹消さるべきものではなかったのである。

七  したがって被告は原告に対し、本件各不動産について本件仮登記の抹消回復登記および右回復された本件仮登記に基づく前記予約完結を目的とする所有権移転登記につきいずれもこれを承諾する義務がある。

八  また前記競落人らは引渡命令に基づき別紙物件目録(二)記載の建物のうち別紙図面斜線部分につき占有を取得し、被告は右部分の占有を承継した。

九  よって原告は被告に対し前記各登記についての承諾および前記占有部分からの退去、明渡を求め、なお被告は原告の本件各不動産に対する所有権を争うので原告が本件各不動産について所有権を有することの確認を求める。

(請求原因に対する被告の答弁)

一  本件各不動産がもと訴外高柳松太郎の所有であったこと、本件各不動産につき、東京法務局板橋出張所昭和四一年九月六日受付第三五、九二四号をもって、原告のため、同月五日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたことは認めるが、その余は不知。

二  不知。

三  原告が予約完結の意思表示をなしたことは不知。

原告が本件各不動産の所有権を取得したことは争う。

四  認める。

五  認める。

六  争う。

(一)  認める。

(二)  本件各不動産について、訴外豊島青果信用組合のため、原告主張のごとき抵当権設定登記がなされたこと、上記裁判所に昭和四三年一二月一二日訴外組合から被担保債権消滅の(届出書には右消滅の日は同年三月三〇日と記載されている。)があったことは認めるが、その余は争う。

七  争う。仮登記には第三者に対する対抗力がないことに加えて、被告は抹消登記が有効なものであると信じて本件各不動産を原告主張の競落人らから売買により善意、無過失に取得し、その対抗要件を具備するに至ったものであって、もし回復登記がなさざれば不測の損害を蒙ることとなるので被告には上記回復登記手続および所有権移転登記手続を承諾する義務はない。

八  認める。

九  被告が原告の本件不動産に対する所有権を争っていることは認める。

(被告の主張)

本件仮登記の抹消登記は正当であって何ら違法なものではない。すなわち、

一  執行裁判所は配当表を実施した後、民事訴訟法七〇〇条一項二号にいう競落人の引受けない不動産上の負担記入の抹消登記を嘱託しなければならないが、右にいう負担記入とは同法六四九条二項にしたがい競落によって消滅する抵当権、先取特権のほか、これらの担保権に対抗できないためこれらの権利と共に競落によって消滅する権利の本登記、仮登記も含まれると解される。

二  そして執行裁判所は強制競売手続を進めるにあたって右に述べた抵当権が現に存在するか否かを調査し、認定する職責を当然に負うものではなく、通常は登記簿の記載に従って判断すれば足りるものである。このことは確定した権利の実現手段として迅速な進行を要請され、書面審理を原則とする強制執行の本質に基づくのであり、執行裁判所が実体上の権利関係について判断することになる手続の停滞を防ぎ、手続の結果の法的安定性を損わないことを目的とするものである。したがって競売実施前の抵当権の消滅についても登記簿上抹消登記がなされていない限り原則として執行手続上は顧慮されないことになるのである。

三  ところで本件において執行裁判所に訴外組合の抵当権の消滅の事実が判明したのは、配当表実施期日呼出状に対して、右訴外組合から昭和四三年一二月一二日に届出があったことによるものであるところ、このように競落許可決定がすでに確定し、代金の払込がなされ、配当期日が指定された段階になって抵当権者から被担保債権が消滅している旨の届出があったとしても、すでに右抵当権が存在するものとして手続がすすめられ、右抵当権およびこれに劣後する権利が消滅することを法定の売却条件として競売が実施され、競落人もこれを前提として競落しているのであるから、執行裁判所としては右抵当権者に配当しないことはともかく、右売却条件の内容にそう措置をとるべく、したがって右抵当権およびこれに劣後する権利の登記の抹消登記を嘱託することは当然である。もし反対に解するとすれば競落人は売却条件を信頼しただけでは自己の利益が保護されず、自らの負担と危険において実体上の権利の存否について調査しなければならないことになり、消除主義を原則とする不動産強制競売本来の趣旨に反することとなる。

四  以上の理由により前記訴外組合の抵当権の消滅の時期如何にかかわらず、執行裁判所がこれを知ったのは前記の時点においてであるから執行裁判所が右消滅の事由を顧慮することなく右抵当権設定登記とともにこれに劣後する本件仮登記の抹消登記の嘱託をしたことには何ら違法な点がないものというべきであり、したがって右売却条件を信じて競落した競落人を保護するため抹消登記の嘱託をなすことを是とする以上、抹消された登記の登記権利者である原告に抹消回復登記手続請求権を認めないことは論理上当然の帰結である。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一  争わない。

二  争う。競売手続が実体上の権利関係と遊離していることを執行裁判所として職権探知する義務がないということは執行裁判所が手続上知り得た右遊離を無視してもよいとの結論をもたらすものではない。

三  争う。下記のように抵当権消滅の事実を知った場合、執行裁判所としては法定売却条件として公告されたところと真実との重大な齟齬を発見したのであるから、職権をもって競売開始決定を取消すべき義務があるものである。右取消がなされれば競落人は確定せる競落許可決定に対し前提裁判である競売開始決定が取消されたことを理由に民事訴訟法四二九条、四二〇条一項八号に基づき再審抗告による取消の申立をする機会が与えられ、その利益を守ることができたはずである。

四  争う。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  本件各不動産がもと訴外高柳松太郎の所有にかかるものであったことおよび本件各不動産について東京法務局板橋出張所昭和四一年九月六日受付第三五、九二四号をもって、原告のため、同月五日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたことは当事者間に争いがないところ、≪証拠省略≫によれば、原告は訴外高柳松太郎、同高柳直己に対し右両名を連帯債務者として昭和四一年春ころから継続的に金員を貸付けたが、右貸付額が同年九月五日現在金三五〇万円に達したため、同日右両名との間で右金三五〇万円のほかさらに継続的に金員を貸付ける旨の契約を締結するとともに、右債務者らが小切手や手形を不渡りとした場合には残債務全額を一時に支払うべきものとし、その場合原告は代物弁済として本件各不動産を取得することができる旨の代物弁済の予約を締結し、同月六日本件不動産につき右代物弁済予約を原因として前記所有権移転請求権保全の仮登記(本件仮登記)が経由されたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。ところが、≪証拠省略≫によれば、昭和四二年八月末ころ訴外高柳直己振出の小切手が不渡りとなったが、当時原告の訴外高柳松太郎、同高柳直己に対する貸付額は金六五〇万円に達していたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。したがって、前記契約に基づき昭和四二年八月末ころ右金六五〇万円全額の履行期が到来したことが明らかである。そして、≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四三年七月一五日付内容証明郵便をもって前記代物弁済の予約を完結する旨の意思表示をなし、同書面はそのころ訴外高柳松太郎に到達したことが認められるから、右予約はこれにより完結したものというべきである。

二  ところで、本件各不動産についてはこれより先訴外木村順が訴外高柳松太郎を債務者として東京地方裁判所に強制競売の申立をなし(昭和四二年(ヌ)第七二一号)、昭和四二年一〇月一八日強制競売申立の登記がなされ、昭和四三年七月一一日訴外会社いすず興産ほか五名が競落許可の決定を受け、代金を完納のうえ昭和四四年二月四日所有権移転登記を経由し、ついで同月一七日右訴外人らから被告に対し同月一五日付売買を原因として所有権移転登記がなされたこと、原告の本件仮登記は右強制競売申立の登記より先順位であること、しかし、本件仮登記よりさきに本件各不動産には東京法務局板橋出張所昭和三五年六月一〇日受付第二〇、五八五号をもって訴外豊島青果信用組合のために抵当権設定登記がなされていたこと、東京地方裁判所は、前記競落にともない、民事訴訟法七〇〇条一項により、前記競落人らのための所有権移転登記を嘱託するとともに原告の本件仮登記の抹消をも併せて嘱託し、これにより右仮登記は東京法務局板橋出張所昭和四四年二月四日受付第三、七四二号をもって抹消登記がなされたことはいずれも当事者間に争いがないところ、≪証拠省略≫によれば、右訴外組合のため設定登記がなされた抵当権の被担保債権は既に昭和三八年六月二五日弁済により消滅し、したがって右抵当権も同日消滅したが、その旨の登記がなされることなく、右設定登記のみが残存していたものにすぎなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  不動産の強制競売の場合、執行裁判所は配当表を実施した後民事訴訟法七〇〇条一項二号にいわゆる競落人の引受けない不動産上の負担記入の抹消登記を嘱託しなければならないが、競落人が競落物件につきいかなる状態の所有権を取得するかは、とくに競売についての法定または特別の売却条件で定められている事項については、これに従うべきものであるところ、法定の売却条件による場合、同法六四九条二項により競落によって消滅する抵当権、先取特権のほか、これらの担保権に対抗できない権利もまた当然競落によって消滅するに至るから、これらの権利に関する本登記、仮登記も同法第七〇〇条一項二号にいう競落人の引受けない不動産上の負担記入に含まれることは疑いのないところである。しかし、本件各不動産に関する上記強制競売は法定の売却条件によったものであることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるけれども、本件各不動産について本件仮登記よりさきに訴外豊島青果信用組合のため設定登記が経由された抵当権は既に昭和三八年六月二五日被担保債権の弁済によって消滅したことさきに認定したとおりであるから、右抵当権は民事訴訟法六四九条二項によって売却により消滅すべき場合に該らず、したがって本件仮登記は、登記簿上右抵当権設定登記に後れるものではあるが、本件仮登記上の権利をもって右抵当権に対抗できないという関係にあるものということはできないから、本件仮登記が右抵当権設定登記に後れるからといって、本件仮登記上の権利が競落により消滅するということはできないというほかはない。右抵当権が消滅したにもかかわらず、ただその設定登記が抹消されることなく残存したからといって、あるいはさらにそのため執行裁判所において右抵当権消滅の事実を知ることなく競売手続を進行し、競落人においてもまたこの事実を知ることなくして本件各不動産の競落をなしたからといって、競落人の取得すべき所有権に関しては、法定の売却条件が当然右抵当権の存在を前提とするものとなるということはできない。被告は、右のように解すると、競落人は競落にあたっては抵当権およびこれに劣後する権利の消滅という決定の売却条件を信じただけでは足りず、自らの危険と負担において実体上の権利についてまで調査しなければならないこととなり、競売手続の迅速安定性を害し、競落人の保護に欠ける旨抗争する。しかし、競落によっていかなる状態の所有権を取得するかについては、競落にあたり競落人が売却条件等にてらして自ら判断すべきであって、たまたま既に消滅した先順位抵当権の登記が残存していればとて、法定の売却条件が競売手続の迅速安定性の名の下に右担保権の存在を前提とするものとなり、したがって後順位者の実体上の権利が害されるもやむをえないものと解することはできない。競落人が登記簿の記載に従った結果蒙る不利益については民法五六八条により売主たる債務者に対し担保責任を追求することによってその救済をはかるべきであって、被告の右主張は採用し難い。

四  以上によれば、前示の本件仮登記の抹消は、抹消すべき原因を欠き、実体上の権利関係に合致しないものであり、しかも右抹消が仮登記権利者である原告の了承の下になされたものでないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、右抹消は結局不法なものといわざるを得ないところ、本件各不動産について競落人らより被告へ所有権移転登記が経由されていることは前示のとおりであるから、被告は本件仮登記の抹消回復登記につき、不動産登記法六七条にいわゆる登記上利害の関係を有する第三者に該当し、したがって原告に対しこれを承諾する義務を負っているというべきである。この点につき被告は、仮登記には対抗力がないこと、被告は抹消登記を有効なものと信じて善意、無過失により本件各不動産を競落人らから取得しその対抗要件を具備するに至ったもので、もし回復登記がなされれば不測の損害を蒙ることを理由に右承諾義務の存在を争うが、仮登記は本登記の順位保全の効力を有するとともに、この順位保全を公示して一般に報告することを目的とするものであるから、その不法抹消については回復登記を許すのが相当であり、したがって、仮登記が不法に抹消された場合には、仮登記権利者は登記上利害の関係ある第三者に対して回復登記につき承諾を与えるべき旨を請求することができ、この場合第三者の善意悪意、回復登記により受ける損害の有無、程度は右判断を左右するものではない、と解するのが相当であり(最高裁判所昭和四〇年(オ)第五七三号、同四三年一二月四日大法廷判決、民集二二巻一三号二、八五五頁参照)、被告の右主張は採用できない。また上記の認定事実によれば原告は訴外高柳松太郎に対し右により回復された本件仮登記に基づき、原告のため昭和四三年七月一五日の予約完結を原因とする所有権移転登記手続をなすべきことを請求できるというべきところ、右所有権移転登記については被告は同法一〇五条一項、一四六条一項にいわゆる登記上利害の関係を有する第三者に該当するから、原告に対しこれをも承諾する義務を負っているものというべきである。したがって、原告の被告に対する本件各承諾請求は、いずれも理由があるものとして認容すべきである。

つぎに、本件各不動産については、前述のごとく、原告のため本件仮登記が存在しているところ、原告はこれを不法に抹消されたものであり、被告は原告に対し右仮登記の抹消回復登記のみならず、さらに右によって回復された仮登記に基づく所有権移転の本登記をも承諾する義務を負っているというべきであるが、しかし、仮登記は本来順位保全の効力を有するにすぎず、物権の対抗力を有するものではないから、右事実から直ちに本件不動産の所有権に関する原告の現在の地位について、これをすでに原告が本登記を経由した場合と全く同視することはできず、右本登記の承諾という限度を超え、原告が本件各不動産について所有権を取得したことを主張して、被告に対し右所有権の確認を請求したり、右所有権に基づいて即時その明渡を請求するためには、右の本登記を経由することを要すると解すべきである。したがって、被告に対し原告が本件不動産につき所有権を有することの確認を求める請求は理由がなく棄却を免れない。また被告が本件各不動産のうち別紙物件目録(二)記載の建物の別紙図面斜線部分を占有していることは当事者間に争いがないけれども、被告に対し右建物部分からの即時の退去明渡を求める点も同様理由がないといわねばならない。しかし弁論の全趣旨に照せば原告には右建物部分からの即時退去明渡が認められない場合は右の本登記を経由したことを条件とする将来の退去明渡を求める意思があり、また右の条件が成就しても被告は直ちに右建物部分からの退去明渡をなす意思がないものと推認されるから、原告は被告に対し右本登記経由を条件として予め右建物部分からの退去明渡を求める必要があるものというべく、したがって原告の被告に対する右建物部分からの退去明渡請求は、原告が本件建物について前記仮登記に基づく所有権移転登記を経由することを条件とする限度において理由があるものとしてこれを認容し、その余は棄却すべきである。

五  よって、訴訟費用につき民事訴訟法九二条但書、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園田治 裁判官 松野嘉貞 石垣君雄)

〈以下省略〉

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